コラム
ねじの知識と選択の勘どころ(第4回)|設計技術者のための設計技術力強化講座

厚生労働省発表「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」では、最新の新規大卒就職者の離職率は31.47%、機械関係の製造業では16.3%となっています。
入社1~3年目の人が不本意な転職をせず続ける上で、着実に仕事のレベルアップができる事が一つのポイントになります。
特に機械設計技術者は、1人前になるのに10年かかるともいわれており、その中で1~3年目は基礎をじっくりと固める時期でもあります。
この記事では、機械設計経験1~3年程度の方向けに、「設計技術力強化講座」として基礎固めに役立つ記事をご紹介いたします。
機械技術者としてのスキルアップ、キャリア形成に向けて、お役に立てば何よりです。
第6回目講座は前回につづき、ねじのお話しです。今回はねじの表面処理やねじの緩みとその対策などについて説明していきます。
執筆者について
株式会社ものプロ
代表取締役 高原 東照
大手工業炉メーカーの設計子会社に入社後、熱処理炉や真空炉の設計業務に従事。同時に、社内で若手向けの技術教育にも携わる。その後新規顧客開拓にも取り組み、受注獲得した研削機、ブラスト機、コンベア等の設備を設計。転職、退社を経て、2017 年に、ものプロを設立。機械設計技術者の養成に携わる一方、機械設計・製図を受託し日々製図・検図に携わる。
目次
6-1 ねじの表面処理
ねじ部品には特殊な場合を除き防錆、防食、機能、外観上などの理由から何らかの表面処理が施されています。その表面処理法について見ていきます。
① 防錆油塗布
高強度ボルトの中には、表面処理をしないものがあります。搬送や保管で錆びないように防錆油を塗布しますが、埃や塵の付着の注意が必要です。
② 黒染め(四三酸化鉄皮膜)
ねじ部を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)に染料を加えた溶液中で加熱して四三酸化鉄皮膜を生成させます。洗浄後、防錆剤を含浸させても防錆力はめっきより劣ります。
③ 亜鉛めっき+クロメート処理
ねじ部に電気亜鉛めっきとクロメート処理(クロム酸クロムの化成処理)を施します。クロメート被膜には自己修復能力があるので、ボルトやナットの代表的表面処理として使われてきました。その後、6価クロムの有害性が原因で、3価クロムに代替されました。
④ ニッケルめっき
ねじ部品に銅めっきをしてニッケルめっきします。銅めっきを半光沢ニッケルめっきに置き換えた二重ニッケルめっきや、さらに耐食性を向上させた三重ニッケルめっきもあります。
⑤ 無電解ニッケルめっき
電気めっきではなく、めっき液中のNiイオンを化学的に還元析出させる方法であるため、幅広い材質に対応できます。複雑な形状や長穴でも均一な膜厚を得ることができます。
⑥ 合金めっき
2種類の金属(例えば、亜鉛と金属や亜鉛とニッケル)の合金めっきは、単一金属のめっきよりも優れた性質(硬い、色の自由度)を持っています。さらに、防錆コーディングを施すものもあります。
⑦ 浸漬塗装焼き付けタイプ
亜鉛粉末をベースとした塗料と上塗り塗料を焼付けする表面処理で防錆力や耐熱性に優れています。塗装なので、水素脆性による遅れ破損の心配もありません。また、クロムフリーなので安全です。このタイプにはいろいろな種類があります。
⑧ アルマイト(陽極酸化皮膜処理)
アルミ製ねじ部品の表面処理です。着色に自由度があります。
⑨ フッ素樹脂コーティング
ステンレスボルトやナットの締め付け字に必要な潤滑剤の代わりにフッ素樹脂をコーティングすることができます。耐熱性、耐薬品性に優れ、無害です。
⑩ 特殊なめっき
光の反射を防ぐ反射防止めっきや殺菌力を強化した抗菌めっきがあります。
6-2 ねじの緩み
ねじの緩みには大きくわけて、回転させたねじが戻るものと戻らないものとがあります。それそれのメカニズムについて見ていきます。
1)ねじが戻らずに発生する緩み
① 初期緩み
最初にねじを締結するとき、締結部にはある大きさの力が加わりますが、このときに表面粗さなどの微小な凹凸が影響して、ねじ締結体は変形します。これが、締結後に時間経過や外力によりへたった場合に緩みが発生します。
② 陥没緩み
締め付けの際の面圧が大きすぎると、締結部の表面が塑性変形します。これが締め付けの際だけでなく、締め付け後の時間経過によっても進むクリープなどによる緩みが生じます。
③ 微動摩耗による緩み
ねじの締結部が外力のはたらきや振動などによってすべり、摩耗して緩みが生じます。
④ 密封材の永久変形による緩み
ガスケットなどの異種材料の密封材が用いられる場合、そのへたりによって緩みが生じます。
⑤ 過大外力による緩み
締め付け後にはたらく過大な外力によって、ボルト自体が塑性変形を起こして伸びてしまい、緩みが生じます。
⑥ 熱的原因による緩み
ねじの締結部に材質の違いがある場合、締結時と使用時で温度変化があると、熱膨張率の違いによって変形し、熱応力が生じます。このことによって緩みが生じます。
2)ねじが戻って発生する緩み
① 軸回り方向繰返し外力による緩み
ねじの締結部に軸方向、または軸直角方向の外力のはたらきや振動などが生じると、ねじ面における摩擦角やねじのリード角などが変化して、ねじの自立条件が成立しなくなることがあります。このことによってねじが戻り、緩みが生じます。
② 軸直角方向繰返し外力による緩み
ねじの締結部に軸直角方向の外力が繰り返し働くと、接触部が滑ってねじが戻ります。このことによって、緩みが生じます。
③ 軸方向繰返し外力による緩み
ねじの締結部に軸方向の外力が繰り返しはたらくと、ねじは引張りと圧縮を繰り返し受けることになります。この場合、準静的と衝撃的の両方で緩みが生じます。
6-3 緩み止め対応
代表的なねじの緩み止め対策について見ていきます。
① 適正トルクで締め付ける
トルクレンチを用いて、適正トルクで締めつけます。それにより締め付け不足によるねじの緩み、脱落を防ぐとともに締めすぎによるねじの永久変形や破損などの不具合の予防にもなります。
② 対角に締める
ねじを複数箇所を締める場合、隣から順に締めると1カ所に力が集中するので、下図のように対角に締めるのが定石です。なお1周目は仮締めで、2周目に本締めを行います。
③ メガネレンチで締める
本締めはスパナではなくメガネレンチで行います。理由はスパナは2面しか保持していないので、適正トルクが掛かりづらいからです。またソケットレンチ+ラチエットハンドルはボルトの径に関わらず、ラチエットハンドルのアームの長さが一定なので、適正トルクで締めるのは困難です。
④ ナット側を締める
ボルト・ナットの締結の場合は、ナット側を回して締めます。ボルトにかかるねじれの力を小さくするためです。
⑤ 増し締め
締めた後に、時間を経てから締めなおすことを増し締めといいます。さらに力を加えて締めるという意味ではありません。同じトルクで締めるので、ゆるみのチェックの色合いが濃い作業です。
⑥ 緩み止め材
ねじ部に緩み止め材を塗布してからねじ締めを行う方法です。ロックタイト®など、さまざまな種類が市販されています。簡単に作業ができるので、よく使われる方法です。ただし、分解が困難です。分解するときは緩み止め材を塗布した箇所をバーナーで炙るとねじが回りやすくなります。
⑦ ダブルナット
2つのナットで締める方法をダブルナットといいます。この際には、締める順番とゆるめる回転方向が大切です。
手順1)ナットBを締める。
手順2)ナットAを締める。
手順3)ナットAを固定したまま、ナットBを逆回転させてナットAとBが互いに押し合う状態にする。
ダブルナットはナットAで荷重を受けているため、ナットAを3種ナットなどの薄いナットにしないよう注意が必要です。ナットBは3種ナットでも問題ありません。ただし作業の手間、部品の種類増加によるコスト等を考えて、A、Bとも2種ナットにするのがいいでしょう。
⑧ 溝付ナット
ある程度以上の初期締め付け力の低下は許さない、または低下の速度を遅らせるという考えで戻り回転を防止するための方法として、機械的な回り止めによる溝付ナット、割ピン付きボルトがあります。
⑨ 緩み止めナット
戻しトルクを増大する方法として、ナイロンなど非金属をインサートしているナイロンナットなどの非金属インサート付戻り止めナット、ナットの上面にフリクションリングをかしめて固定し、一体化されているUナットなどの全金属製戻り止めナット、フランジ付きナット、セレーション付きナットなどがあります。
⑩ 偏心ナット
ボルトの軸線に対して偏心したテーパ部分をもつ下ナットBに、偏心していないテーパ穴をもつ上ナットAを強く締めます。テーパ部がくさびとなって半径方向に大きな力が生じ、ねじ面の摩擦力が増えて緩みにくくなります。ハードロックナット®という商品名で市販されています。
⑪ ロックワイヤ
ねじにワイヤを巻きつけて回転を防止する方法です。ワイヤの掛け方にはダブルツイストワイヤ法やシングルワイヤ法など、さまざまな方法がありますが、ダブルツイストワイヤが安全回り止めの標準方法です。ワイヤーツイスターという専門工具があると作業が楽になります。
⑫ 細目ねじ
並目ねじに対して細目ねじはピッチが小さいために、らせんの傾斜角も小さくなることで、緩みにくくなります。
6-4 まとめ
ねじのまとめとして、ねじ部品選択上の考慮事項を上げておきます。
① ねじ部品に加わる外力の検討
ねじ部品に加わる力を見積ります。また加わる力が、時間的に変動しない力か変動する力かを判断します。
② 締結部の分解可能性の検討
一度ねじ部品を締め付けた後、ほとんど取り外すことがないか、あるいはときどき取り外すかを判断します。
③ 強度
加わる外力の大きさおよび種類を求めた後、ボルト締結部に加わる外力に十分耐えうる強度を持つ寸法および材質の選択を行います。
④ 耐食性
鋼を腐食させる可能性のある使用環境では、ねじ部品表面に腐食を防ぐような処理をするか、腐食に強い材料(耐食性材料:ステンレスなど)を選びます。
⑤ ねじの緩み防止
締結部の緩みが機械の運転上大きな支障をきたすと考えられる場合には、ねじが緩むことを防ぐために、特別な処置や緩み防止部品を必要とするかを判断します。
⑥ 締結作業用空間の確保
ねじ部品を用いて部材同士を締結するためには、ねじを締める工具が必要となります。六角ボルトの場合、通常スパナやソケットレンチなどの締め付け工具が使用されますが、この作業を行う空間を確保しておく必要があります。
⑦ ねじ頭部の扱いについての検討
ねじ部品の頭部が、締結部品の表面から出ていて良いかを検討します。
⑧ 入手可能なねじかの検討
JISに規定されているねじであっても、使用頻度の低いねじである場合、市販されていない場合があるので、注意を要します。。
ねじについては以上です。今回でこのブログは最終回となります。今までありがとうございました。また次の機会にみなさまとお会いできることを楽しみにしています。
- 参考文献
- 機械設計の知識がやさしくわかる本」西村仁著、日本能率マネジメントセンター、1985年
- 「ねじ基礎のきそ」門田和雄著、日刊工業新聞社、2006年
- 「はじめての機械要素」吉本成香著、森北出版、2017年
- 「ねじの知識」田村修著、養賢堂、2008年
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